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6年目の振り返りと今後の目指すもの〜平衡料理を目指して〜2022/05/06

SUN AND MOON

2022/05/062022:05:06:20:27:44

6年目の振り返りと今後の目指すもの〜平衡料理を目指して〜

切り替わりのシグナル

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↑庭の八重桜

戸隠もようやく草木が伸びやかな芽吹きの季節を迎えました。柿の木は若葉が芽を出し、庭の八重桜は咲き始めました。

数日前から近いうちに何かが切り替わる感覚があり、これまでに経験したことの大きな振り返りをしようと思っていましたが、それが今朝でした。

移住してから今年で6年になりますが、「ここに慣れるには6年くらいはかかるかねぇ」と戸隠に嫁いできた大先輩方から言われた年数を超える頃になりました。

私はこれまでどういう料理を作ってきて、これからは何を目指して、どこへ行くのか?

6年という1つのサイクルを経て、そのようなことを最近よく考えるようになりました。

振り返れば、食に対しての刺激と学びをたくさん受けたことに改めて気付かされ、その経緯とこれからについて投稿しようと思います。

これらの振り返りをするきっかけになったのは、主人のご縁で参加させていただいた香・音・食の3つの要素を融合させた3人のプロによる軽井沢でのワークショップです。その3つの重なりがとても興味深く、素晴らしく、私自身の感じ方にも新たな気づきをいただきました。また、会場で彫刻家さんの展示会もされており、不思議な木彫りのスプーンと出会い、思わず連れて帰ってきたこともきっかけの1つとなっています。

また、ここ2ヶ月ほど前に遡りますが、蓼科を拠点とされていて、生活そのものもとても素敵な料理研究家の方とのご縁をいただきました。そこでいただいた「素描料理」と称されるお料理は、人の芯にすっと入る気取らない純粋な美味しさでした。作り手の、まさしく「手」を通した心のあり方や、土や自然の素材で作られたお道具が、料理と食べる側へ影響を与えるということを深く感じました。

そして、第四期に入ったTHE KOKONOEを運営する中でお越しいただいたお客様からいただいた感想等。

これまでのことが大きな波として押し寄せて来た感覚でした。

戸隠での学び

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↑夏の緑濃い戸隠山

戸隠へ移住して得た学びは、なんといっても、ダイナミックに移ろう自然の中での動植物の強さとその恵み。
そして、その自然の中で生き抜いた、先人達の食(保存食や郷土食)や農業の知恵を地元の先輩方から教えていただいたことです。
半年ほど続く長く厳しい白銀の冬を乗り越えた末に迎える春の喜びと、芽吹く山菜・野草のパワーの強さ、人間界の様子などもろともせず、草花が歓喜し、伸びゆく姿を見て、人間も自然と共通するDNAを持ち、強く逞しく生き抜いてきた歴史を実感しました。

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↑季節にはたくさん畑にいる雨蛙

当初は農家・農業をメインとしていましたが、標高の高いこのエリアでは定植を終えた農繁期でも降霜や寒暖差があり、苦労もありました。しかし、霜でダメージを受けてもまた芽が出るものや、寒暖差に耐えた野菜が驚くほど美味しく、植物の持つ強さに驚きつつも、高原野菜が美味しい理由も体感しました。

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変化・変容の時期を迎えて

折しも、昨今の東欧の情勢も含め、近年の世界の動きを振り返れば、東日本大震災やコロナなど、人間が変化変容、切り替わりることをかなり早いスピードで求められる状況が続いているように感じます。

私たちの屋号もここのえからTHE KOKONOEに変わりました。

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↑ヨセミテ国立公園 エル・キャピタン

3年前コロナ禍直前でバークレーに行く決断をしたことで、ヨセミテ国立公園の巨木とダイナミックな自然に出会い、途轍もない生命力に感銘を受けました。
また、私自身の憧れであったシェ・パニースというオーガニックムーブメントの火付け役である老舗のレストランにインターンシップで関わり、持続可能な食のあり方やレストランと農業が強いつながりを持つということを実践している現場を実際に自分の目で見たことは宝物の経験となりました。

そして、コロナが猛威を振い始める中、インターンシップ先のクローズダウンと外出禁止のロックダウンを経験することになり、早い段階で飲食業界の危機だけでなく、世界的危機を肌で感じました。カオスぎりぎりの状態のアメリカから帰国したときに感じたことは、日本と世界の温度差でした。漠然と「このままでいいはずがない。対岸の火事ではない。」と思いました。

危機感を持ちながら過ごしていたその年の冬、主人がゴングを購入したことで変化が起こり始めました。自然界もエネルギーが沈下する冬の時期。その年は私もエネルギー的に落ちていたように感じましたが、ゴングの響きがエネルギーを供給・循環させるような感覚を得て、主人は修士論文を書き終え、5年間休眠していた絵が急に再開し、日本橋でゴングと絵画の展示会を開くご縁をいただき、加速度的に変化がありました。

このゴングの圧倒的な響きと不思議な覚醒とも言える力にに共振共鳴してくださり、コラボレーションを一緒にしてくさる仲間ができたことも大きな変化と財産であり、つながりが広がることでモリダイラ楽器様と提携しPAiSTe社の一部のゴングを日本特約店として扱わせていただくに至ったと感じています。

そしてゴングを聴きたいというご要望も増え、THE KOKONOEでは新たにゴングの音(振動)の力を活かしたデトックス・癒し・美容・創造のサービス提供するリトリートステイという宿泊プランを設けました。

ゴングをお聴きになったお客様からは、宇宙に飛んでいったようだった、魂が震えた、とにかく振動が心地よい、いつまでも聴いていたい、また聴きにきたい、と言ったとても前向きで嬉しいご感想を頂戴したことがありがたく、また、感性の高い方が増えているということにも驚きを感じました。


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↑当時の看板メニュー、花豆のベジタコプレート

お食事の面では、お客様ご自身の内在する力を高められるように植物性中心で、体への負荷が少ないメニューを提供しました。食べた方がクリエイティブになるようなエネルギーが高い旬のものを使い、調味は、自家製の味噌や柿酢、麹を使った発酵食品を中心に素材を邪魔しないように心がけました。

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↑保存食であり、軽発酵食でもある青梅の自家製ピクルス

すると、
食事を始めてからすぐに腸の動きや体の変化を感じるというお声や翌日のお通じの変化、美味しくたくさん食べたのに体が軽くて、朝ごはんも美味しく食べられた、というご感想を多くいただき、これまで食べられなかったものが食べられるようになり、日々の生活に取り入れるようになったという報告もいただき、励みになりました。

カフェとして営業していた時代から肉や魚などの動物性食品は極力控え、地元のものや安全な自家菜園でとれた野菜主体の料理を作り、化学調味料を使わないで作ってきた料理のスタイルが、周りから奇異に思われることもありましたが、ここにきてバシッとはまった感覚があり、口に入れるものは単にお腹を膨らまし、味覚を満足させて終わるだけでのものはない、ということも改めて感じました。

平衡料理を目指して

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お客様に喜ばれるお料理を作ることは大事なことではありますが、私自身が食事をするとき・作るとき、何を指標としているのか?

これまでの変化に伴い、私が常々考えること・向き合うことになったテーマでもあります。

食べる側・作る側は、「美味しさ」という個人の主観的感覚を満足させるために、美味しいと評価されているお店を探したり、美味・珍味と言われる貴重な食材を求めます。
また昨今は、「映え」という新たな要素が加わり、美的感覚や視覚を満足させることも「美味しさ」の要素になっています。

そういったことが料理のプロの使命と捉えられていることもあると思いますが、もしそれだけであれば、僭越ではありますが、それは表面的なことに留まっているかもしれないとも思います。

ファストフードが好きな人、焼肉が好きな人、野菜が好きな人、味が濃いものが好きな人、薄味が好きな人、ヴィーガンやベジタリアン、ペスカトリアン、グルテンフリー、精進、食のアレルギーを持つ方など、さまざまな食の趣味趣向や哲学を持っている人が昨今増加傾向にあるように思います。

つまり、美味しさとは、数限りない個々人の味覚などの趣味趣向に大きく左右された偏りの最大公約数であると言えるのではないでしょうか。

食事とは、毎日口にし、自分の体を作り、命を繋ぐ尊い行為でありながら、

美味しさという限定的な感覚と欲望を追い求めた時、それは必ずしも、人のポジティブな生命活動に即しているとは言えない面もあるのではないかと感じます。

東洋の哲学では、人は様々なものが合一された1つの有機体であり、その中のバランスが偏ることで、心身の様々な問題が表層化されると考えられています。

体の3つの要素(ワータ・ピッタ・カファ)がバランスを崩すことで心身の問題が起こるという考え方もインドのアーユルヴェーダとして耳にされたこともあるのではないかと思います。

そのようなバランスの偏りの原因を大きく分ければ、有機体としての私たちが外側から影響を受ける外的要因、生まれ持ったもの、意図的・恣意的に体内に取り込むもの、と大まかに3つに分類した時、

その中でも特に、口からダイレクトに体内に取り込むものは体への直接的な影響があります。

と、言い切れるのは、前出の話のお客様の反応を見てきた過去の経験にも基づくものがあるからです。

そして、口から入れる食物・食材が持つ力を、外的要因との調整力や、体内に取り込んだ時の防衛力、そして生まれ持った不完全性を補佐していくために役立てるための食事の作り方である「薬膳」の考え方は、太古の昔からから存在しています。

また、野草・薬草・野菜など、食材が持つ力が絶大であっても、それをどのようにして取り入れるか・どのように調理し提供するかということも重要なポイントであり、調理することの大きな意味があります。

アクを取らなければ苦く、場合によっては体に負荷をかけることにもなります。
火を通さなければ人体に害を及ぼす食材もある反面、生でないと得られない効果を持つ食材もあります。
同じ食材であっても、生のもの、火を通したもので味が異なります。

短期的・長期的に関わらず、調理は結果として生命に関わってくるものです。

昨今フードペアリングという科学的・統計的な組み合わせの方法もあるようですが、 どのように作るかは、都度食材を聴いて、適するバランスで調理をする必要があると私は思います。

それは私の農業経験から、食材は育った場所やどのように育てられたかで個性は違ってくると感じているからです。

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美味しいものとしての味覚。
ただ単に口から入れるものではない食事。
有機体である私たちと周りの環境。
食材の個性とその力。
それらの平衡をとり、料理すること。

それが食べた人が幸せになれる料理と信じ、

独自に「平衡料理」と称し、私の代名詞として、今後の活動を共にします。

どうぞよろしくお願いします。

THE KOKONOE 平衡料理人 水谷江希

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THE KOKONOEシェフ 水谷 江希

THE KOKONOEシェフ水谷 江希

小中高をシンガポール・アメリカで過ごし、絵画修復士となるため奨学金を得てシカゴ美術館附属美術大学に合格。両親の都合で帰国し、筑波大学に入学。卒業後、外資系メーカーに入社し、プロダクトデザイナーとして働く。その後食の世界へと転身し、料理教室の開催・講師業を務める。2020年、シェ・パニースへインターンシップのため渡米。料理研鑽に励み、現在に至る

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